先日、散歩の途中いきなり愛犬が悶え始めました。
心なしか必死な形相を浮かべています。
何が始まったの?
冷静に観察すると、悶えてるんじゃなくて地面に身体をこすりつけているのだと判明。
ん? 何? 臭いぞ。
同時に、鼻が曲がりそうな臭いが周りを包みました。
真夏の生ごみに近い悪臭。
地面の上に赤黒い何かが落ちています。
愛犬を引きはがし、鼻をつまみながらその物体に顔を近づけました。
…ミミズ、か?
半分干からびたミミズの残骸が悪臭を放っていました。
臭い、とにかく臭い。
いや、実際の表現的には「くっせぇぇぇー!」が正しい。
それでもまだうちの愛犬は執拗に身体をこすりつけようとしています。
臭いからやめてくれ。
リードを引っ張り強引にその場から離れました。
家に帰ると風呂場に直行し、嫌がるわが子を何度も洗いました。
臭いは完璧には取れずほのかに残り香があるものの、それでも大分マシにはなりました。
一体何だったのか?
その日の夕飯時、旦那にこの話をすると。
ダンナ「犬万か」
わたし「インマン?(何?そのちょっと卑猥な響き)」
ダンナ「サスケだよ」
わたし「さぁ透け?」
ダンナ「忍者の」
わたし「淫者?」
とことん噛み合わない夫婦の会話がそこにはありました。
犬とミミズ

夏、ミミズは土の中が暑いので涼しい場所を求めて地上に出てきます。
出てきたのはいいけれど、炎天下のアスファルトで体を焼かれ水分が蒸発し死んでしまいます。
それが腐って干からびていいあんばいに熟成されたものが先日の物体なのです。
これが犬には堪らないらしい。
中には食べちゃう子もいるそうな。
ちなみに、漢方薬ではミミズの乾燥したものを「地竜(ジリュウ)」と呼び、薬効は解熱作用や利尿作用(おしっこを出やすくする)などが挙げられています。
また、ミミズの乾燥粉末を使用したペット用の健康補助食品なんてものも発売されているようです。
猫にマタタビの犬版
マタタビの匂いを嗅いだり食べた猫は、身体をくねらせゴロゴロと床を転げまわったりそこら中を走り回ったり、いわゆる陶酔状態になります(全員ではないらしい)。
これはマタタビの匂いが性的なフェロモンに似ているからだと言われています。
犬にとってミミズの残骸は、これとよく似ています。
人間ならお酒を飲んで酔っ払った感じなのか、はたまたシンナーを吸ってラリってる感覚に近いのか。
どちらにせよ嗜好品の類と考えればよいのでしょう。
ていうか、媚薬なのです。
身体に良いか悪いかはさておき。
なぜ身体にこすりつけるのか?
他の臭いを自分につけて(自分の臭いを消して)敵から自分を守るためといった意見がありました。
だけど、あの恍惚の表情を見る限りこれはちょっと違う気がします。
単純にあの臭いが大好きで身体に擦りつけているとしか思えませんでした。
それで「犬万」って何なの?
犬万とは、白土三平さんの漫画「サスケ」や「カムイ外伝」に登場し、これを使うと周囲の犬を呼び寄せたり意のままに犬を操ることができる、なんともすごい忍術なのです。
ただし、自分の体に塗りたくる必要があるらしく、想像するだけでめまいがしそうです。
レシピは、
「たくさんのミミズを壺の中に入れ天日にさらして腐らせ、それを鍋でグツグツ煮る」
と出来上がるようです。
※白土三平さんの代表作
・サスケ ; 1961~1966年 月刊少年 全55話 1968年テレビアニメ化
・カムイ伝 ; 1964~1971年 月刊漫画ガロ 全74回
・カムイ外伝; 不定期 1969年テレビアニメ化
結構古い漫画ですが、今でも根強い人気を保ち続けています。
カムイ伝は第一部二部と続き、第三部はいまだ構想中のようです。
おわりに
ミミズの腐った臭いが堪らなく好き。
人間には理解し難い、だけど犬にとっては譲れない理由、本能がそこにはありました。
美的感覚が人間とはズレているのです。
スリスリせざるを得ないのです。
これを利用した忍術が犬万でした。
スリスリを叱ったり怒ったりするのは理不尽で大人気ない行為です。
かと言って、その後のシャンプーは面倒くさいし、なにより不衛生ですよね。
対策としては、散歩中にミミズの死骸を見つけたら避けて通るしかないようです。
「君子危うきに近寄らず」
ですね。